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松山地方裁判所宇和島支部 昭和42年(ワ)101号 判決 1968年11月13日

原告

有限会社さつきタクシー

被告

清家俊雄

ほか一名

主文

被告両名は、原告に対し、各自金三四万六、一六七円およびこれに対する昭和四二年一〇月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告両名に対するその余の請求を、いずれも棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告両名の連帯負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

「被告両名は、原告に対し、各自金三八万四、六三〇円およびこれに対する昭和四二年一〇月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告両名の負担とする。」との判決を求める。

二、被告両名の申立

「原告の被告両名に対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、原告の主張

(請求の原因)

一、原告は、旅客運送を目的とするハイヤーおよびタクシー業を営む会社であり、また、被告清家義雄(以下、被告義雄と略称する。)は、化粧品の販売業を営み、その子である被告清家俊雄(以下、被告俊雄と略称する。)を右事業に関し自動車の運転その他の業務に使用しているものである。

二、昭和四二年七月八日午前二時ごろ、原告の使用人である運転手の訴外松本辰美(以下、松本と略称する。)は、原告所有の小型四輪乗用自動車(愛媛五あ六六―二〇、コルト一、五〇〇、以下、原告車と略称する。)に乗客一名を乗せ、宇和島市和霊町附近の国道五六号線道路上を愛媛県北宇和郡吉田町方面より宇和島市内に向け進行し、和霊大橋北側の交通整理の行われていない交差点(十字路)にさしかかつたところ、同所において右国道と交差している小道路の西側から被告俊雄の運転する軽四輪自動車(ライトバン、以下、被告車と略称する。)が突如右国道上に飛び出て来たため、松本はこれを避譲するいとまがなく、右交差点において、被告車の左側前部が原告車の右側前寄りの部分に激突し、そのまま原告車は、右和霊大橋の左側の欄干に突き寄せられて大破し、この事故により、左右側面および内部に、整備、鍍金および塗装等合計金二四万八、三五八円相当の修理を要する損傷を受けた。

三、右事故は、被告俊雄が被告車を運転して右交差点へ進入するに際し、その通行している道路と交差する右国道の幅員が明らかに広いので、同被告は、当然徐行をなすべきであつたにもかかわらず、これを怠り、当時飲酒酩酊の上バーのホステス二名を同乗させて雑談し、漫然進行した過失により発生したものであるから、同被告は、不法行為者として、右事故によつて原告がこうむつた損害を賠償すべき義務がある。

四、被告義雄は、前記自己の営業に関し、被告俊雄を被告車の運転手として使用しているほか、営業外においても同被告に自由に被告車の運転を認めていたものであるから、仮に、本件事故当時被告車が被告俊雄の私用に供せられていたものであつたとしても、第三者としてはその区別ができず、したがつて、右事故当時の被告俊雄の被告車の運転行為は客親的外形的には被告義雄の事業の執行についてなされたものと認められるから、同被告は、民法第七一五条により使用者として、原告が右事故によりこうむつた損害を賠償すべき義務がある。

五、原告は、右事故により次の損害をこうむつた。

(一) 金二四万八、三五八円

前記二に記載の原告車の修理に要した費用。

(二) 金一万六、二七二円

右事故により原告車は使用不可能となり、これに代る新車を購入するまでの三日間、原告車を稼働させ得なかつたことによる得べかりし利益の喪失額(一日金五、四二四円の割合)。

(三) 金一二万円

昭和四三年一月三〇日原告は、訴外愛媛三菱自動車販売株式会社から新車を購入するに際し、同社にその下取として原告車を代金二一万八、〇〇〇円で売却したが、原告車が右事故により破損せず、通常の使用に供せられた場合は、その価額は金三三万八、〇〇〇円で、この金額で下取りされるはずであるから、この価額で下取に出せなかつたことによりこうむつた損害(右価額と右下取代金との差額)。

六、よつて、原告は、被告両名に対し、それぞれ、右損害金合計三八万四、六三〇円およびこれに対する訴状送達日の翌日の昭和四二年一〇月一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告両名の抗弁に対する答弁)

被告両名主張の抗弁事実のうち、本件事故現場が、交通整理が行われておらず、かつ、原告車の進行方向からは左右の道路の見透しのきかない十字路であるところ、当時松本は原告車を減速せず、時速六〇キロメートルの速度で運転していたことは認めるが、その余の事実は否認する。朝七時より夜一〇時までを除くその余の時刻においては、同所附近は時速六〇キロメートルの走行を許された区間であり、また、松本は、右十字路を通行するに際し警音器を吹鳴しておるから、原告側(松本)には、過失はなく、仮に、過失があつたとしても、その程度は、被告俊雄の過失に比較し微少である。

第三、被告両名の主張

(答弁)

一、請求の原因一の事実は認める。

二、請求の原因二の事実のうち、原告車がこうむつた損傷の部位、程度が原告主張のとおりであることは不知、その余の事実は認める。

三、請求の原因三の事実のうち、本件事故は、被告俊雄が、被告車を運転して本件交差点へ進入するに際し、その通行している道路と交差する国道の幅員が明らかに広いにもかかわらず、徐行を怠つた過失により発生したことおよび当時同被告は、飲酒酩酊の上、被告車にバーのホステス二名を同乗させていたことは認めるが、同被告が右ホステスと雑談し、被告車を漫然運転進行させたことは否認する。

四、請求の原因四の事実のうち、被告義雄が自己の営業に関し、被告俊雄を被告車の運転手として使用していたことは認めるが、被告義雄が営業外においても被告俊雄に自由に被告車の運転を認めていたことは否認する。被告車は被告義雄の所有であり、被告俊雄は被告義雄の子であるが、被告俊雄は既に二五才で、しかも、当時同被告は被告義雄の営業上の用途に被告車を運転していたものでないから、原告主張のとおり、被告義雄が使用者責任を負わされるいわれはない。

五、請求の原因五の事実のうち、原告車が本件事故により破損しなかつた場合の価額が金三三万八、〇〇〇円であることは否認する、その余の事実は全部不知。仮に、原告がその主張のとおり、原告車を修理し、下取りに出したとしても、事故を起したままではほとんど価値のなかつた原告車を金二四万八、三五八円の費用を投じて修理したことにより金二一万八、〇〇〇円で下取処分できたのであるから、(一)の損害から右下取代金を控除すべきである。また、原告は、本件事故直後、原告車を廃車とし、新車(愛媛五あ六、八四一)を運行しているから、原告車の休車による(二)の損害はあり得ない。

(抗弁)

仮に、被告両名が、本件事故により原告がこうむつた損害を賠償すべき義務があるとしても、本件事故の発生は、原告側(その運転手の松本)の過失もその原因をなしている。すなわち、本件事故現場は、交通整理が行われておらず、かつ、原告車の進行方向からは左右の道路の見透しのきかない十字路であるから、松本は事前に警音器を吹鳴し、原告車をいつでも急停車の処置を講じ得る速度に減速して進行さすべきであつたにもかかわらず、これを怠り、警音器を吹鳴せず、時速六〇キロメートルの速度で原告車を運転したため本件事故が発生したものであるから、本件事故発生につき原告側にも過失があつたといわねばならず、しかも、その過失の程度は、被告俊雄のそれよりも重大である。

そこで、被告両名は、過失相殺を主張する。

第四、証拠関係 〔略〕

理由

一、本件事故の内容

(一)  原告は、旅客運送を目的とするハイヤーおよびタクシー業を営む会社であり、また、被告義雄は、化粧品の販売業を営み、その事業に関し、その子である被告俊雄を被告車の運転手として使用していること、昭和四二年七月八日午前二時ごろ、原告の使用人である運転手の松本が原告所有の原告車に乗客一名を乗せ、宇和島市和霊町附近の国道五六号線道路上を愛媛県北宇和郡吉田町方面より宇和島市内に向け時速六〇キロメートルの速度で進行し、和霊大橋北側の交通整理が行われておらず、かつ、原告車の進行方向からは左右の道路の見透しがきかない交差点(十字路)にさしかかり、そのまま減速しなかつたところ、右交差点において右国道と交差している小道路の西側から被告俊雄の運転する被告車が突如右国道上に飛び出て来たため、松本はこれを避譲するいとまがなく、右交差点において、被告車の左側前部が原告車の右側前寄りの部分に激突し、そのまま原告車は右和霊大橋の左側の欄干に突き寄せられ、これにより原告車は大破したこと、被告車の通行していた右小道路と交差する右国道の幅員は明らかに広いにもかかわらず、当時、被告俊雄は、飲酒酩酊の上バーのホステス二名を被告車に同乗させて、徐行を怠り、右交差点に被告車を進入させたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  そして、〔証拠略〕を総合すると、被告俊雄は、本件事故当日の前夜、宇和島市和霊元町四丁目の友人宅へ友人の家屋の改造の手伝に被告車を運転して出向いたが、その帰路、被告車で同市内のバーや飲食店へ友人と遊びに行つて飲酒したりしたのち、被告車で知合のバーのホステスを同市柿原の同女方まで見送つて行く途中に本件事故を起したこと、原告車が進行していた国道の幅員は八・一メートル、これに交差している被告車の進行していた小道路の幅員は三・六メートルで、道路交通法に定める優先道路には指定されておらず、本件事故現場の交差点附近には人家があつて、被告車の進行方向からは原告車が進入して来た方面の見透しはきかないこと、しかし、被告俊雄は、当時飲酒酩酊して、注意力が散漫となり、深夜でもあるため、原告車の進入して来た方面から右交差点へ進入して来る自動車はないものと考え、時速約三〇キロメートルの速度で被告車を漫然と右交差点へ進入させ、その出合頭に原告車と衝突したこと、一方、原告車の進行方向からは、そのライトの光が左右の道路から右交差点へ進入して来る自動車のライトの光と交差してこれがうすめられ、早期にこれを確認できず、右交差点の手前約一〇メートルぐらいの至近距離においてようやく右光を発見できる状況にあつたが、松本は、右交差点の手前約三〇メートルの所において左右の道路から右交差点へ進入して来る自動車のライトの光を見なかつたため安心し、前記時速六〇キロメートルの速度で原告車を右交差点に向つて進行させたところ、その入口附近において、右斜前方約六メートルの右側小道路からさし込む被告車のライトの光とこれに引続き被告車を発見して、急に衝突の危険を感じ、はじめて警音器を吹鳴し、ただちに急停車の措置をとつたが間に合わず、前記のとおり被告車と衝突したことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

二、被告両名の賠償義務の有無および原告側の過失の有無、程度

(一)  本件事故現場は、交通整理が行われていない交差点で、原、被告車はほとんど同時に右交差点に進入したところ、被告車の通行していた小道路(優先道路に指定されておらない。)の幅員よりもこれと交差する原告車の通行していた国道の幅員が明らかに広く、その上、被告車の進行方向からは原告車が進行して来る方面の見透しがきかない状況にあつたものであるから、道路交通法第三六条第二項、第三項または第四二条に基づき、被告俊雄は、被告車をただちに停車できる速度に減速し、原告車の進行を妨げてはならない注意義務があつたというべきところ、同被告は、これを怠り、前記時速約三〇キロメートルで、飲酒酩酊により注意力が散漫となつて漫然と右交差点へ進入したため本件事故が発生したものである。そうすると、本件事故は被告俊雄の過失による不法行為により惹起せしめられたものといわねばならないから、被告俊雄は、本件事故により原告がこうむつた損害を賠償すべき義務がある。

つぎに、被告義雄は、自己の化粧品販売事業用に被告車を保有し、その子の被告俊雄を被告車の運転手として使用しているものであるが、本件事故当時は被告俊雄が自己の私用のため被告車を運転していたのである。しかし、この事実から判断すると、被告義雄は、明示あるいは暗黙のうちに、被告俊雄に被告車を営業外においても自由に使用することを容認し、その間その使用方法や管理を同被告に一任していたことが推認できる。ところで、民法第七一五条(使用者責任)は、いわゆる報償責任ないしは危険責任を根拠として設けられた規定であるから、自動車のような危険なものを自己の事業の用に供しているものは、その運行上直接、間接予測され得る危険の範囲内において惹起せしめられた事故については、自己の業務の執行につき生じたものとして、右法条に基づき責を負うべきであると解するを相当とする。そこで、この見地から考察すると、本件事故は、被告義雄の容認の下において被告俊雄がその私用のため被告車を運転中に発生したものであるから、予測できる危険の範囲内において惹起せしめられた事故であるというべきであり、したがつて、本件事故は、被告俊雄がその使用者の被告義雄の事業の執行につきなしたものと認めるを相当とする。そうすると、被告義雄は、民法第七一五条に基づき使用者として、本件事故により原告がこうむつた損害を賠償すべき義務がある。

(二)  原、被告車の本件事故現場の交差点への進入状況および両車の通行道路の幅員の広狭の程度は右(一)に記述したとおりであるから、前記の如く道路交通法第三六条第三項により、被告車は原告車が右交差点を進行することを妨げてはならず、したがつて、原告車の方に右交差点を先に通過できる優先権が認められるので、原告車の運転手の松本としては、原告車をただちに停車できる速度に減速徐行して右交差点に進入するまでの注意義務はないものといわねばならない。しかし、原告車の進行方向からは右交差点へ通ずる左右の道路の見透しはきかず、しかも、当時右道路から進入して来る自動車のライトの光を早期に発見しにくい状況にあつたものであるから、松本は、左右の道路から右交差点へ進入して来る自動車の有無に充分の注意を払い、機に応じてこれに対処できる程度の速度に原告車を減速すべき義務はあつたといわねばならない。なお、本件事故当時は深夜であることは先に認定したとおりであり、したがつて、左右道路から進入して来る車両の極めて少いことが予見でき、また、附近住民の安眠を妨害してはならず、当時右交差点附近が警音器を吹鳴すべき区域に指定されていたことを認める証拠もないから、松本において、右交差点の手前から事前に警音器を吹鳴すべき義務はないと考える。ところが、松本は、時速六〇キロメートルの高速度で原告車を運転し、右交差点の入口にさしかかつたため、早期に被告車の動静を確認できず、そのため急停車の措置をとつても間に合わず本件事故が発生するにいたつたのであるから、松本は、同人に要請された右減速義務を怠つており、したがつて、本件事故発生につき松本にも過失があつたといわねばならない。そして、これまで認定の本件事故発生にいたつた諸事実を総合すると、本件事故発生に関する被告俊雄の過失の程度と松本のそれは、九対一であると認めるを相当とする。そうすると、松本の右過失は、原告側の過失として、過失相殺に供せられ、被告両名の負担すべき賠償金額を算定するにつき斟酌せられるべきである。

三、原告のこうむつた損害

(一)  修理費用

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故後、訴外河田自動車株式会社に原告車の本件事故により破損した部分の修理を依頼し、昭和四三年八月ごろ、その修理に要した費用として金二四万八、三五八円を同社に支払つたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、右修理費用は原告が本件事故によりこうむつた損害である。

(二)  休車による損害

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故当時その保有車両全部を営業に供し得る状態にあり、本件事故の前には原告車の運行により一日当り金五、四二四円の純収益をあげていたところ、原告は、本件事故により原告車が破損したため、これをその営業に供することができず、これに代る新車を購入してこれを運行に供するまでの期間(昭和四二年七月九日から同月一一日までの三日間)、原告車の運行による収益(三日間で合計金一万六、二七二円)をあげることができなかつたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、原告は、本件事故のため、原告車の運行であげ得た右収益を喪失し、これに相当する損害をこうむつたといわねばならない。

(三)  原告車の値下りによる損害

〔証拠略〕を総合すると、原告は、昭和四二年三月二九日、新車である原告車を代金六三万円で購入し、その後本件事故当時までこれを使用しているので、その使用期間を四ケ月としてその間の通常の消耗による値下り金額(定額減価償却率による一ケ月当り金二五、〇〇〇円)を控除すると、本件事故当時の原告車の本件事故に遭遇しなかつた場合の価格は金五三万円であるが、原告車は本件事故に遭遇したため一層値下りし、その修理前の価格はわずか金一五万円であること、原告は、原告車を前記のとおり修理したのち、廃車届を出してこれを使用しなかつたが、その後昭和四二年九月ごろ営業車両の許可台数が増加したため原告車を使用していたところ、昭和四三年一月三〇日ごろ、訴外愛媛三菱株式会社から新車を購入するに際し、その下取として原告車を同社に下取代金二一万八、〇〇〇円で売り渡したこと、しかし、当時、同社は、原告から、使用期間と型式種類が原告車と同じで事故に遭遇しなかつた車両を下取代金三三万八、〇〇〇円で買取つていたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。そこで、これらの事実より考えると、本件事故により破損した原告車の修理前の価格は金一五万円であるので、これに、修理した分だけ価格が増加するものとして前記認定のその修理費用金二四万八、三五八円を加えると、その価格は金三九万八、三五八円になるが、本件事故当時の本件事故に遭遇しなかつた原告車の価格は金五三万円であるので、修理しても元の状態に完全に回復できず、本件事故のため、原告車は、なお金一三万一、六四二円(右金五三万円と右金三九万八、三五八円との差額)値下りになつているものといわねばならず、また、本件事故に遭遇しなかつた場合のその当時における原告車の価格は金五三万円であるので、これから、その後下取処分するまでの使用期間(五ケ月間)における通常の消耗による値下り金額(金一二万五、〇〇〇円)を控除すると、本件事故に遭遇しなかつた場合の前記下取処分当時における原告車の価格は金四〇万五、〇〇〇円であるといわねばならない。果して、そうだとすると、本件事故に遭遇しなかつた場合は、原告は、原告車を、右下取処分当時における価格金四〇万五、〇〇〇円(または、少くとも前記認定の同種同等の他の車両の下取代金三三万八、〇〇〇円)で下取処分できたはずであるところ、本件事故に遭遇し、修理してもなお右のとおり価格が下落しているため、止むを得ず右通常の下取代金より安い金二一万八、〇〇〇円で下取処分せざるを得なかつたことが推認できるので、その差額(原告が主張する、少くとも、右金三三万八、〇〇〇円との差額である金一二万円)は、原告が本件事故により原告車が値下りしたためこうむつた損害であるといわねばならない。

(四)  なお、被告両名は、(一)の損害金から(三)の原告が現実に得た下取代金二一万八、〇〇〇円を控除すべきである旨主張する。しかし、損害の賠償は、被害者をして事故のなかつた元の状態に経済的に回復さすことを目的とするところ、(一)の修理費用は、いわば原告車が本件事故に遭遇しなかつた元の状態に復するために出費した金員であり、また、右下取代金は修理後の原告車の売却代金であるが、これは原告車が本件事故に遭遇しなかつた場合においても原告が取得し得た金員であり、しかも、前記認定のとおり、修理したため、原告車が本件事故に遭遇しなかつた場合よりも高価に下取処分できたわけでない(むしろ、その場合よりも少くとも前記認定の如く金一二万円安価である)。そうすると、右下取代金は、原告が本件事故により、これに遭遇しなかつた場合よりも余分に多く取得した利得ではなく、原告としては、右修理費用と右下取代金の両方を取得しなければ本件事故に遭遇しなかつた元の状態に復せない(なお、これのみでは十分でないため、前記(二)と(三)の損害を請求している。)ので、右修理費用から右下取代金を控除すべきでないことは明らかであり、被告両名の右主張は失当である。

四、結論

以上認定したところによると、原告は、本件事故により三の(一)ないし(三)の合計金三八万四、六三〇円の損害をこうむつたものであるが、二の(二)に記述の原告側の過失の程度を過失相殺として斟酌すると、被告両名が各自賠償の責を負うべき損害額は、金三四万六、一六七円(右損害金合計三八万四、六三〇円の一〇分の九に相当する金員)であるといわねばならない。そうすると、被告両名は、原告に対し、各自右損害金三四万六、一六七円およびこれに対する本件記録上明らかな訴状送達日の翌日である昭和四二年一〇月一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、原告の被告両名に対する請求を右の限度において認容し、その余の部分を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水地厳 重富純和 山崎末記)

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